かつて「筋トレは健康に良い」と言われた瞬間に、文字通りそれを全身全霊で実践し、誰もが驚くほど筋肉を鍛え上げた男がいた。彼は一度始めたら止まらない、筋トレの申し子とも言える存在だ。普通の人なら、筋トレを始めると少しずつ体が変わり、その過程を楽しむものだが、彼の場合はそれが「日常生活そのもの」となってしまった。

最初は誰もがよくやるように、ジムで軽くダンベルを持ち上げたり、ランニングマシンで汗を流す程度だった。仕事の後にジムに通うのが習慣になり、「これで少しずつ体が変わっていくんだ」と楽しみながら続けていた。しかし、彼は次第にその快感に取り憑かれる。筋肉がつき始めると、その変化に満足するどころか、もっと大きく、もっと強くなりたいという欲望が彼を駆り立てたのだ。

「今日の俺は昨日の俺を超えなくてはならない」。彼はそう自分に言い聞かせ、筋トレの頻度を増やしていった。朝、目が覚めるとすぐに腕立て伏せ100回。仕事の昼休みには、オフィスの椅子を使ってディップスを始める。そして仕事が終われば、毎晩必ず2時間以上ジムに通い、限界まで自分を追い込むのが彼の日課となった。彼の体は瞬く間に変わり、まるで彫刻のような筋肉で覆われていった。

しかし、彼の筋トレ愛はここでは終わらない。筋肉がつけばつくほど、もっとトレーニングしないと「足りない」と感じるようになるのだ。彼にとって、筋肉の成長は一種の終わりなき旅路。限界を超え、さらなる高みへと自分を追い込む。それは、もはや趣味や健康のためではなく、「筋肉そのものが人生の目的」と言わんばかりだった。

彼がどれほど筋トレに取り憑かれていたかを物語るエピソードがある。ある日、友人が「久しぶりに飲みに行こう」と誘った。普通なら気軽に応じるところだが、彼は真剣な顔でこう答えた。「今日は背中の日だから無理だ」。友人は「背中の日って何？」と聞き返すが、彼にとってはそれが全く理解できない。「背中の日」とは、背中の筋肉を集中的に鍛える日であり、それは彼のスケジュールの中で最優先されるべき行事だったのだ。友人との飲み会よりも大切なこと、それは筋トレだった。

さらに、彼の食生活も筋トレの一環として完璧に管理されていた。朝はプロテインシェイク、昼は鶏胸肉とブロッコリー、夜はまたプロテインとささみ。時には「増量期」と称して、無理やり大量の食事を詰め込むこともあれば、「減量期」には一切の脂肪を削ぎ落とすために、食事制限を徹底的に行う。その結果、彼の体脂肪率は一桁台に突入し、まるで筋肉の塊のような姿になった。

しかし、その極端な筋トレライフスタイルは次第に周囲にも影響を与え始めた。職場では、彼が重い資料や箱を軽々と持ち上げるのを見るたびに、同僚たちは「すごいね！」と感心するが、彼はそれを当然のことと思っていた。なぜなら、彼にとって筋トレとは「普通の生活」であり、重いものを持つことなど日常茶飯事だったからだ。さらには、何かのイベントでみんなが楽しく過ごしている最中に、彼は一人黙々と腕立て伏せを始めることすらあった。「休憩時間は有効に使うべき」と言わんばかりのその姿勢に、友人たちは少し引き気味だったが、彼は全く気にしていなかった。

彼の筋トレ愛は家族にも影響を与えた。食卓には常に低脂肪の食材が並び、家族の誰かがスナック菓子を食べようとすると、彼が真剣な顔で「それ、筋肉の敵だぞ」と忠告してくる。家族は最初こそ笑っていたが、次第に彼の筋肉中心の生活に慣れていき、彼のルールに従うようになった。今では、彼の家全体がまるでフィットネスセンターのようだ。

だが、彼の筋トレ生活は、ついに体に異変をもたらすことになる。ある日、彼がジムでベンチプレスをしていると、いつもより重い重量に挑戦した瞬間、肩に激痛が走った。だが、彼は痛みに耐えながらも「これも成長の一部だ」と言い聞かせ、トレーニングを続けた。しかし、その結果、ついには肩を故障し、医者から「しばらく筋トレは控えるように」と言われてしまう。これは彼にとって、人生最大の危機だった。

トレーニングを控えることなど考えたこともない彼は、最初こそその現実を受け入れられなかったが、次第に自分の限界を悟るようになる。「体を壊しては元も子もない」という現実に直面し、彼は初めて自分の筋トレライフに一息つくことを決めた。

とはいえ、彼の筋トレ魂は決して消え去ることはなかった。今では、リハビリの一環として軽めのトレーニングを行いながら、筋肉の調整に励んでいる。以前のような過剰なトレーニングは控えているが、彼の筋肉への愛は依然として健在だ。むしろ、故障をきっかけに「バランスの取れた筋トレ」という新たな目標を見つけた彼は、今でもジムで日々汗を流している。

彼が筋トレに取り憑かれた結果、周囲は驚きと笑いに包まれながらも、彼の情熱には一目置かざるを得なかった。筋トレし過ぎた彼は、もはや筋肉そのものが人生の象徴となり、その生き様は筋肉愛に満ちた壮大な物語として語り継がれることだろう。彼が示してくれたのは、「限界を超える」という言葉の本当の意味であり、その筋肉への愛情は、どんなトレーニング書にも勝る熱意として我々に感動を与えているのだ。

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