その子どもは、幼稚園児なのに、他の子が「アンパンマン」や「しまじろう」を観ている時間に、なぜかリモコンを握りしめ、NHKの夜のニュースを観るのだ。「おかあさんといっしょ」ではなく「クローズアップ現代」。砂場でおままごとをする時間には「モーニングショー」。それが、彼の日常だ。

初めてその子を見たとき、先生も驚いた。まだ幼稚園の年中組であるにも関わらず、彼の興味は「今日の円相場」に集中していたのだ。他の子が「お絵描き大好き！色えんぴつちょうだい！」と言っている中、彼は真剣な顔で「今日の円高、輸出業界に大打撃ですね」とぽつり。大人も思わず言葉を失った。

彼の家では、夕食の時間になると、家族全員がNHKの夜7時のニュースを見る習慣があるという。普通の子どもならば、ニュースが始まると飽きて他のことをしたがるだろうが、彼は違った。夕食のテーブルに座ると、箸を握る前にリモコンを手に取り、真剣な表情で画面を見つめる。その顔はまるで、大人が株価の変動を見守るかのようだった。

「さて、今日のニュースをチェックしなくちゃ」と彼は言い放つ。まるでテレビ局の記者が言いそうな口調で、堂々と語るのだ。

一度、幼稚園の先生が彼に「どうしてそんなにニュースが好きなの？」と聞いてみたことがあった。すると彼は、小さな手をポケットに入れ、ちょっと大人ぶった表情でこう答えた。「世界の動きは、僕たちの未来を左右するんです。今から理解しておかないと、将来の選択を誤ることになるかもしれません。」先生はその瞬間、思わず椅子から落ちそうになった。「選択を誤る」などという言葉を使う幼稚園児を見たことがない。

彼の趣味はニュースの視聴だけではない。彼は日々のニュースを分析し、幼稚園での会話にもそれを反映させるのだ。例えば、昼休みの時間、他の子どもたちがブロック遊びやかけっこをしているとき、彼はひとりで砂場に腰を下ろし、真剣な表情で砂を掘り返しながら言った。「砂場もいつか、環境問題に取り組まなければならないでしょう。温暖化の影響が進むと、この砂もいずれは貴重な資源になるかもしれません。」

そんなことを話す幼稚園児がいるだろうか？普通ならば「お砂のお城を作ろう！」などと言うところだ。しかし、彼にとっては砂遊びすらも、地球環境の問題につながっているのだ。まるでミニ版の国際会議に参加しているような気分にさせられる。

さらに驚くべきは、彼の経済分析の深さだ。ある日、幼稚園でおやつの時間に出されたミカンを見て、彼は急に真剣な顔でこう言った。「ミカンの価格は今後どうなると思いますか？最近の輸送コストの高騰が農産物に与える影響を無視できませんね。特に、温暖化による収穫量の減少が価格に与えるインフレ圧力が気になります。」

他の子どもたちはミカンをむいて無邪気に食べている中、彼だけはミカンを前に経済討論を始めてしまうのだ。幼稚園の先生は、もはや彼をどう扱えばいいのか悩むしかなかった。

彼はまた、国際情勢にも詳しい。年長組になった頃、ちょうど国連のニュースが話題になっていた日、先生がクラスの前で「今日は大きなニュースがあります」と言ったときのこと。普通なら、子どもたちは「何が起きたの？」と興味津々に聞くところだ。しかし彼は、すでに事情を知っていた。「国連総会の話ですね。ウクライナ問題に関しては、今後の対話の進展がカギになると思いますが、EUとロシアの関係がこれ以上悪化すると、エネルギー政策にも影響が出る可能性がありますよね。」

これを聞いた先生は一瞬、言葉を失った。国連総会やウクライナ情勢について、これほどまでに詳細なコメントをする幼稚園児がいるだろうか？

一方、彼が周りの子どもたちに与える影響も大きい。最初は彼の話に誰もついてこられなかったが、次第にクラスメイトたちも興味を持ち始めた。彼の影響で、「昨日のニュース見た？」という会話が幼稚園で交わされるようになったのだ。もちろん、内容は幼稚園児らしい解釈だが、それでも彼はクラスの「ニュースリーダー」として認識されるようになった。

彼の未来は、すでに明るい。おそらく彼は、10年後には大学で国際関係や経済学を専攻し、20年後にはどこかのシンクタンクで働いているだろう。そして30年後には、世界の経済フォーラムで講演をしているかもしれない。しかし、今はまだ幼稚園児だ。

それでも、彼の家では夜の7時、家族全員がニュースを観る中、彼だけは真剣な表情で画面に集中している。そして、ニュースが終わるとリモコンを手に取り、まるでニュースキャスターのように一言。「さて、明日も波乱の一日になりそうですね。良い準備をしましょう。」

その幼稚園児がどんな大人になるのか、誰もが楽しみにしている。

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