彼は、決して怠け者ではない。むしろ、意志の強さは並外れている。毎週、決まった時間にジムに通い、汗だくでトレーニングをこなす姿は、まるでプロアスリートのようだ。スパッツにタンクトップを身にまとい、ダンベルを上げ下げし、トレッドミルで息を切らす。周囲の人々も「あいつ、真剣だな」と、感心して見守っている。しかし、彼にはひとつ大きな“問題”があった。

それは、彼のジム後の「儀式」とも言えるピザのドカ食いだ。

トレーニングを終えると、彼はジムの出口を出る前に一つ深呼吸をし、「よし、今日もやり切った！」と心の中でつぶやく。ここまでは普通のジム仲間たちと何ら変わらない。しかし、彼の真のバトルフィールドは、そこから始まる。ジムのトレーニングを終えた直後、彼の心はすでに次の目的地であるピザ屋に向かっているのだ。

「運動した後はタンパク質補給が大事」と語る彼だが、彼が向かうのはジムのプロテインバーではない。彼の栄養補給の場所は、ピザ屋のカウンターだ。今日も、彼の目はファミリーサイズピザ一枚にロックオンしている。生地はもちもち、チーズはとろとろ、そしてベーコンやソーセージがこれでもかというほど盛られた夢のような一品だ。

彼はジムで消費したカロリーを取り返すどころか、遥かに超える勢いでピザを頬張る。「運動した後だから、これくらいは大丈夫」と自らに言い聞かせながらも、その手は一瞬たりとも休むことがない。次々とピザを口に運び、チーズが伸びるたびに、その目は輝く。まるで自分が筋トレのご褒美を受け取っているかのように、全身でその瞬間を楽しんでいるのだ。

しかし、傍目には、誰もが気づいている。彼のジムでの努力は、今目の前にあるそのピザによって完全に帳消しになっているのだ。カロリー計算をすれば一目瞭然。彼がジムでせっかく燃やした500カロリーを、このピザはたったの2切れであっという間に取り戻してしまう。ファミリーサイズを完食すれば、2000カロリーを軽く超える。彼が一生懸命トレーニングで得た成果は、ピザのドカ食いでまるで魔法のように消えていくのだ。

しかし、彼の中では別のロジックが働いている。「ピザはトレーニングのエネルギー補給だ！」そう彼は自信満々に語る。周りがどれだけ「意味ないよ、それ」と笑っても、彼は一向に気にしない。「だって、運動してるからいいんだよ！」という謎の理論で、自らのピザ愛を正当化している。

ある日、ジム仲間が彼に声をかけた。「お前、トレーニング頑張ってるけど、なんか体型変わってないよな？」と冗談めかして言うと、彼はニヤリと笑ってこう返す。「いや、実は俺、ピザトレーニングってやつをしてるんだ」。ピザトレーニング？と仲間たちは戸惑いを隠せない。彼が言うには、ジムで筋トレをしてカロリーを消費し、その後にピザをドカ食いして、また次の日ジムに行く。このサイクルを繰り返すことで、心身のバランスを取っているというのだ。

ジム仲間たちは呆れ顔だが、彼はいたって真剣だ。「筋肉ってさ、燃料が必要なんだよ。それに、俺は運動してるから好きなもの食べてもいいんだ」。そう言いながら、彼は満足そうにピザの箱を閉じ、席を立つ。その姿は、まるで「今日もやり遂げた」と誇らしげだ。

だが、真実は残酷だ。数週間、数ヶ月が経っても、彼の体型は全く変わらない。ジムで汗をかき、筋肉を追い込んでも、ピザの力はそれ以上に強力だ。彼の体は、まるでピザそのもののように柔らかく、ふっくらと成長していく。脂肪という名の筋肉が、彼の体を優しく包み込んでいるかのようだ。

それでも、彼は全くめげない。「ピザは俺の人生の一部なんだ」と堂々と言い放つ。彼にとって、ジムでのトレーニングも、ピザのドカ食いも同じくらい大事な「ルーチン」なのだ。周りがどう思おうと、彼には彼のやり方がある。確かに、彼の筋トレの意味は、ピザによって全て打ち消されてしまっているのだが、彼の中でそれは大した問題ではないらしい。

彼は「自分らしくあること」を何よりも大切にしている。そしてその「自分らしさ」は、ジムで汗を流すことと、ピザを食べることで成り立っているのだ。彼の理論では、食べることを楽しみながらも、運動を続けている限り、どこかでバランスが取れるはずだと信じている。もしかすると、彼のピザトレーニング理論がいつか世界的に認められる日が来るかもしれない…そんな希望すら抱いている。

こうして彼は今日もまた、ジムで汗を流し、その後はピザ屋でドカ食いする。筋肉を作り上げるはずだったカロリーは、彼の愛するピザによって優しく上書きされていく。彼の努力は毎回リセットされるが、彼は一切の後悔をしない。「だって、これが俺のスタイルだからな！」と胸を張る彼は、ある意味で真のチャンピオンだ。

彼にとって、ジムもピザも、どちらも大事なライフスタイルの一部。ピザがすべてを無に帰してしまおうと、その笑顔は崩れない。結果など気にしない。大事なのは「自分の好きなものを楽しむこと」なのだ。

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