彼は社内で「残業王」と名乗る男だ。誰もが残業を嫌がる中、彼はその名の通り、残業を愛してやまない。朝、出勤するときには、周りの同僚たちが「今日も定時で帰れるといいな」と顔を曇らせているのに対し、彼だけは顔をほころばせ、目をキラキラさせている。「おはよう！今日はまた残業しようぜ！」と、彼は出勤早々、やる気満々に声をかける。周囲は、呆れた顔で彼を見つめるが、彼にはまったく気にしない様子だ。彼のモットーは「残業こそが仕事の醍醐味」だそうで、早速彼のデスクには今日の残業メニューが整えられている。

その日、彼はいつも通りのダークコーヒーを片手に、仕事に取り掛かる。彼のデスク周りには、クッキー、チョコレート、さらにはお菓子の山が積まれ、そこに「残業エネルギー補給」と書かれたポストイットが貼られている。まるで「残業専用の魔法の食料品」とでも言わんばかりだ。周りの同僚たちが「そんなに働くなら、休みも取らなきゃダメだよ！」と心配するが、彼はニヤリと笑ってこう言う。「いや、俺はこの時間が一番好きなんだ。だって静かだし、自分のペースで仕事できるじゃん！」

彼は残業の時間が近づくと、次第にテンションが上がってくる。仕事が終わった同僚たちが次々と帰っていく中、彼は「お疲れ様！また明日ね！」と明るく見送る。誰もいなくなったオフィスで、彼は「さあ、俺の時間が来た！」と自分に言い聞かせる。残業中は、普段は聞かない音楽を大音量で流し、ダンスしながら仕事をすることもある。たまに、オフィスの窓から外を見ている通行人に、彼が踊っている姿が見られることもあるが、そんなことにはお構いなしだ。

もちろん、彼には残業の理由がある。彼の愛する仕事は、なんといっても「資料作成」。彼はこの地味で面倒な作業を、まるで趣味のように楽しんでいる。「資料が完成した時の達成感はたまらない！これぞ残業の醍醐味だ！」と、彼はいつも叫ぶ。彼の作成した資料には独特のセンスがあり、グラフの色使いやレイアウトには、一種のアートのような美しさが宿っている。周囲の同僚たちからは「すごいね、これ！」と感心されることも多いが、彼は「まあ、残業で生まれた作品だからな」と余裕の笑みを浮かべる。

さらに、残業の時間帯には、彼独自の「残業トークタイム」が設けられる。もちろん、誰もいないオフィスで独り言を言うスタイルだが、彼はそれを「自己対話」と呼び、「これこそが成長の時間だ」と豪語する。「自分の仕事を振り返ることで、次に活かせるからな！」と、一人で喋り続ける様子は、まるで自己啓発セミナーの講師のようだ。

彼の残業愛は社内で有名になり、上司も少しずつその姿勢を理解するようになった。「お前、残業して何か成果を出してるのか？」と尋ねる上司に対して、彼は堂々と「もちろん！俺の資料は全社の中で一番評価されてるから！」と胸を張る。その結果、上司は彼を「残業王」と認め、彼の意見をしばしば求めるようになった。「お前が残業するのは良いが、他の社員にも残業を強いるなよ」と、苦笑いしながらも上司は彼に注意するが、彼は「心配無用！俺は残業を楽しんでるだけだから！」と、どこか得意げに返す。

その後も彼は、残業時間が終わっても帰らず、同僚のデスクを訪ねて「残業仲間にならないか？」と誘うことが日課になっていく。最初は戸惑っていた同僚たちも、次第に彼のエネルギーに引き込まれ、「まあ、たまにはいいかも」と残業を楽しむようになっていく。

彼が残業の楽しさを広めるうちに、いつしかオフィスには「残業クラブ」ができた。その名も「残業部」。部員たちは、彼の残業愛に影響され、毎週一回、残業を楽しむための集まりを開くようになった。もちろん、集まっても本当に仕事をするのではなく、あーだこーだと雑談を楽しむのが主な目的だ。

そして、ある日のこと。彼は何の前触れもなく、急に社内掲示板に「残業サミット開催」のお知らせを貼り出した。その内容は、オフィス全体での残業イベントで、参加者を募るというものだった。みんな最初は戸惑っていたが、彼の熱意に押され、参加することに決めた。

当日、オフィスには「残業王」の名のもとに集まった人たちが、楽しげに仕事をしていた。普段は暗い残業室も、彼の存在によって明るくなり、笑い声が響く。彼は言う。「さあ、みんな、残業を楽しもう！そして、次の成果を共に分かち合おう！」その言葉に、みんなが頷き合い、まるで新しい風が吹き込んできたかのようだ。

こうして「残業王」と呼ばれる男は、ただ残業を愛するだけでなく、その愛を仲間たちに広めることで、オフィスの雰囲気を変えてしまった。今では、彼の姿はオフィスの象徴となり、残業の時間は仲間たちと共に過ごす特別な時間として位置づけられている。「残業が大好き」というだけでなく、彼はその情熱を持って仲間たちを引き込むことに成功したのだ。これからも、彼は残業の世界で輝き続けることだろう。

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