ハワイ－その名を聞くだけで、心が躍る人も多いだろう。輝く太陽、透き通った海、波打ち際で戯れるカメたち。そして、パイナップルやココナッツがいっぱいのトロピカルジュースを片手に、サンセットを眺める光景が目に浮かぶ。だが、そんなハワイの魅力をすべてシャットアウトし、ホテルの部屋に引きこもるという、誰もが思いつかないような冒険を成し遂げた者がいる。

その人物は、ハワイ旅行初日からホテルの部屋にこもり続け、ついに滞在中一歩も外に出ることなく帰国した。まるでハワイの外界が存在しないかのように、彼は己の小さな王国、すなわちホテルの部屋の中だけでバカンスを完結させたのだ。

普通の旅行者なら、カメラを片手にワイキキビーチを歩き、アロハシャツを着て写真を撮り、ノースショアでサーフィンに挑戦し、ルアウ（ハワイの伝統的な宴）でフラダンスを楽しむだろう。しかし、彼にとっての冒険は、ベッドに身を沈め、テレビのリモコンを片手に一日中ネットフリックスを楽しむことだった。

「ハワイの波？そんなのテレビで見ればいいじゃないか」と、彼は豪語する。確かに、ホテルの部屋には巨大な液晶テレビがあり、その画面に映る海は十分美しい。エアコンが効いた部屋で、熱帯の湿気や強い日差しに悩まされることもなく、冷たいドリンクを手に持ちながら、ソファに深く腰掛ける。これこそが彼にとっての「究極のリゾート体験」なのだ。

彼の部屋から見える景色は、ビーチでも山でもなかった。窓の外には別のホテルの壁があり、日中はその壁が影を落としていた。しかし、その無機質な景観こそ、彼にとっては「外の世界に出なくて良い」という安心感を与えていた。なぜなら、ハワイにいるのに「外に出なければ」というプレッシャーを感じることがなかったからだ。

「ハワイの何がいいって、ホテルのサービスが最高なんだよ」と彼は満足げに語る。ルームサービスを毎日利用し、朝食には豪華なパンケーキとコナコーヒー、昼食にはガーリックシュリンプ、夕食には新鮮な魚料理がベッドの上に運ばれてくる。こうして、彼はハワイ料理を満喫しながら、一歩も部屋を出ることなく美食を楽しんだ。

「海で泳ぐ？」彼は鼻で笑う。「なんでわざわざ塩水に浸かってベタベタになるんだ？バスタブで十分だろ。」確かに、彼のホテルには大きなジャグジーがあり、そこに身を沈めながら、窓越しにほんの少しだけ見える青い空を眺めることができた。温かい泡に包まれて、まるで海の中にいるかのような錯覚に陥りながら、彼は至福の時間を過ごしていた。

しかし、彼の引きこもりライフの真骨頂は、その「見えない勇気」にある。旅行というのは、外の世界を探索し、未知の場所や体験に飛び込むものだと誰もが信じて疑わない。だが彼は、そんな世間一般の「旅」の概念を覆した。ハワイという観光地にあって、彼は「外に出ない」という選択肢を堂々と選び取ったのだ。

もちろん、周囲の友人や家族は彼に外に出ることを勧めた。「せっかくハワイに来たんだから、少しくらいビーチを歩いてみたら？」という声もあった。しかし彼は一切動じなかった。「ハワイは来るものではなく、感じるものだ」と、哲学的な一言を放つ。彼にとって、ハワイの空気や文化を「感じる」ために、わざわざ体を動かす必要はなかった。彼はベッドの上で感じていたのだ。

最終日、チェックアウトの時間が迫る中、彼は一瞬だけ窓を開け、外の世界に目を向けた。その瞬間、温かい風が彼の頬を撫で、遠くから海の波音がかすかに聞こえてきた。彼は微笑み、そっと窓を閉めた。「外は結構だ。十分、楽しんだ」と静かに呟き、荷造りを始めた。

飛行機に乗り込んで帰路につくとき、彼は満足感に浸っていた。「ハワイをこんなにも堪能したのは、きっと俺だけだろう」と心の中で誇らしく思っていた。空港で聞こえてくる旅行者たちの「ビーチが最高だった」「サーフィン楽しかったよ」という会話に耳を傾けながら、彼はふんわりと微笑んだ。彼は、他の誰よりも深いレベルでハワイを「感じ取った」のだから。

結局のところ、旅行というものは人それぞれだ。彼にとっての完璧なハワイ旅行とは、外界との接触を最小限に抑え、自分だけの空間で心の平穏を得ることだったのだ。ハワイの自然や文化に触れる方法は、決して一つではない。彼はそれを証明したのである。

そして彼は、帰国後もその体験を大いに自慢していた。「ハワイ？最高だったよ。毎日が天国みたいだった」と語る彼に、友人たちはビーチでの日焼けを想像するかもしれない。だが、彼が実際に過ごしたのは、エアコンが効いた静かなホテルの一室。そこが、彼にとっての「天国」だったのだ。

このように、彼は自分だけの新しい旅行スタイルを確立し、その名をハワイの歴史に刻んだのだろう。少なくとも、彼の心の中では。

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